
高校生・オスカルを主人公にしたスペインのYA(ヤング・アダルト)作品。
サウザンブックスも選定委員として参加した2016年度のNew Spanish Booksで、日本での刊行をお勧めする本として選定された作品です。
男の子を好きになるというだけで、オスカルは学校でも、そして旧態依然とした男性優位主義者の父親が支配する家の中でも居場所を見つけられません。
そして親友に募らせていた恋心を告白したことがきっかけで、オスカルは過酷ないじめを受けるようになります。
親友は思わせぶりな態度であったにもかかわらず、態度を一変し、級友たちに言いふらすのです。
追いつめられたオスカルは自傷行為をくり返すようになり――。
LGBTブームの最中に起きてしまった悲しい事件、一橋大生の自死を思い起こさずにはいられません。
物語は、オスカルが強くなるために通いはじめた柔道教室で自由な価値観を持つ青年セルヒオと知り合うことで大きく展開していきます。
すべてを受けとめてくれるセルヒオは精神的な支えになります。
ふたりは自然と惹かれあいますが、かんたんにはいきません。積極的に好意を表現するセルヒオに対して、前の失恋を経てどうしても前に踏み込めないオスカル。
そんな折、とうとう父親に同性愛者であることがばれてしまい――。
本作は、オスカルとセルヒオの恋の行方を読ませる恋愛小説としての醍醐味を軸にしながら、複雑な家庭環境にある思春期の少年の自立を描き、多様な愛を認める社会の実現を問うています。
異性愛者の中には、日本はもともと同性愛に寛容な文化であり差別はないなどと言う人もいます。
しかし、実際には一橋大学の学生のように死を選ぶまで追い詰められる人も少なくなく、その一歩手前で悩んでいる若者が大勢いるのです。
そんな若い人たちがこの本を手にしたことで勇気を得て、自己を肯定しプライドを持って生き抜くことを決意してくれたらと願っています。
プライド叢書では今後、ゲイのみならずレズビアンやトランスジェンダーを扱った書籍の刊行に注力していきます。
セクシュアリティによる差別の上に、女性問題も抱えたレズビアンやトランスジェンダーの人たちの事情はゲイよりもさらに複雑な側面があり、その情報を発信していくことは非常に重要だと考えます。
しかし、私自身が当事者でないため行き届かないこともあるかもしれません。
レズビアンやトランスジェンダーや、その他さまざまなセクシュアリティの人たちの参加をお待ちしています。
セクシュアル・マイノリティ自身が必要な情報を社会に向けて発信していくためのツールとなるプライド叢書。
その行方は第一弾である本書の成否にかかっています。セクシュアル・マイノリティ当事者のみなさん、そしてアライのみなさんのご支援をお願いいたします!
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